言葉遊び

「ねぇ、歌穂りん」
 とある昼休み、二人の女子生徒がベランダ状に設けられた廊下で話している。一人はポニーテール、もう一人は三つ編みに、それぞれ髪をまとめている。
「今日はどうしたの、翠?」
 ポニーテール少女の問いかけに、三つ編み少女は律儀に応えた。
「オムライスって、あるじゃん?」
「あるわね」
「あれって日本生まれの料理だよね?」
「らしいわね。発祥には諸説あるとか」
「あれって、洋食? 和食?」
 歌穂は特に考えず、答える。
「日本生まれの洋食かしらね、あれは」
「じゃあさ、カレーうどんは?」
「あれは……どうなのかしら」
 今度は、言葉に詰まった。
「ねえ、困るでしょ?」
「そうね……。ああ、いい言葉があるわよ」
「なになに?」
「和洋折衷」
「……答えになってない!」
 すると翠の目に、とある少女の姿が目に入った。
「そうだ、セーラちゃんだっけ、はどう思う?」
 声をかけられて振り向く少女。
「何の話?」
「カレーうどんが、和か、洋かって話」
「『和』じゃない?」
 歌穂とは違い、即答する。
「じゃあじゃあ、オムライスは?」
「あれも『和』でしょう」
「……和食かしら、あれ」
 歌穂が一人呟くが、翠には聞こえていない。
「さらにさらに。たらこスパゲティは?」
「あれも、『和』と言えるわよ」
「うむふむ」
「海部さん、さすがにたらこスパは洋食じゃ……」
 歌穂が指摘すると、セーラは突然、笑い出す。
「どうしたの、セーラちゃん?」
「本陣さん、私は『和』か『洋』か聞かれたから、『和』って答えただけよ?」
「……へ?」
「和食か洋食か、は聞いてないでしょ?」
「うむうむ、確かに確かに」
 翠が相槌をうつ。
「カレーとうどん、足した結果はもちろん、『和』でしょう?」
 セーラは解説するが、二人には訳が解らない。
「明太子とスパゲティ、足した結果がたらこスパゲティなのだから、これも『和』よね?」
「……なるほど!」
 翠にはようやく、カラクリが理解出来たようだった。
「え、どうして?」
 一方歌穂は、どうしても解らない。
「簡単な言葉遊びよ?」
「じゃあさ、結局和食、洋食?」
 翠がセーラに聞いた直後、チャイムがなる。昼休み終了五分前の予鈴。
「授業行かないと、いけないわね」
「あ、ありがと、セーラちゃん」
「どういたしまして?」
 セーラは自分の教室へと戻るため、二人の許を離れた。
「ねえ翠ちゃん、どういうこと? どうして『和』なの?」
「授業終わったら教えるから、よく考えてみて?」
「授業に集中出来ないじゃない! 次の数学B、よそごとやってたら怒られるのに!」
「うん、ヒントはそれだね」
「……どういうこと?」
「教えない☆」
「……もう、先生に注意されたら翠ちゃんのせいだからね!」
 そして二人も、自分の教室へと戻っていった。

おわり