画面のセカイ。

 街に、異変が起こっていた。
 歩いていた人は立ち止まり、ケータイのカメラを空に向ける。それに釣られ、ボクもまた、空を見上げた。そこにあるものは確かに、常軌を逸したものだった。
 銀色に輝く名古屋テレビ塔の、その上。服を着た、羊のようなキャラクターが空を漂っている。ボクはそれに見覚えがあった。見覚えがあったけど、信じられなかった。
 ボクもケータイをポケットから取り出し、画面を起動させる。ケータイの待ち受け画面上を移動するキャラクター。マチキャラというこのキャリア独自の機能のものだ。それはまさに、この栄上空を漂っているものと同じだった。ボクが撮ったテレビ塔の写真。上手く撮れたので待ち受けにしていたが、それがこのような状況を生み出すとは。しかもそれらは連動するように、行動を一にする。ケータイ上のキャラクターが方向転換すると上空のそれも向きを変え、上空のそれが立ち止まっている時にはケータイのキャラクターも静止する。
 人々は続々と、ボクのいる久屋大通公園に集まってくる。ここが一番見やすいから。当然だ、ボクの撮ったテレビ塔の写真は、ここから撮っているのだ。
 後ろから突然ドン、と押されボクはケータイを取り落とす。拾おうとした時前にいた女性が後ろに下がり、彼女のハイヒールでケータイの画面が踏まれる。ケータイの画面に、ひびが入った。即座に拾い上げ、文句を言おうとしたが、もうそこはそんな状況ではなかった。
 高さ一八〇メートル、二〇一一年までテレビの電波を送り続けてきた鉄塔が突然、その中ほど、展望台のすぐ上の所で折れ曲がってしまっていた。生まれるざわめき、少し遅れて悲鳴。そして、パニック。
 人々は無我夢中で、逃げ惑い始める。どこに行く当てもなく、ただこの恐怖から逃げたいばかりに。ボクはただ、この状況を見守りたいと思った。しかし人の波に揉まれ、それは叶わない。人の波に、ボクは流されていく。
 ボクの手から再び、ケータイがこぼれ落ちる。ケータイは音を立てて地面に叩き付けられ、人々の足に踏まれ、画面は粉々になってしまった。
 空から、銀色の破片が落ちてくる。そして世界は真っ暗になり、

おわり