十二ヶ月

四月
 ボクの周りは、盛り上がる。皆が必死になって、まだ見慣れない、そして初々しい人たちに声をかけている。遠くからは音楽の演奏が聞こえる。そっか、そういう季節か。ボクはじっと、そんな人たちを見守っている。くしゅん。誰かが咳をした。

五月
 初々しさを出してた人たちも慣れてきて、新しくできた友人と一緒に歩いたりしている。ボクがそんな彼らに触れ合うことは少ないけど、時々、お昼ご飯を持ってやって来る。手作りのお弁当だったり、どこかで買ったパンだったり。ちょっと一口分けてよなんて、さすがに言えないけど、ちょっと味見してみたいと思ったり。

六月
 雨の季節になると、ボクを訪ねてくる人も多い。まあ、雨に濡れていたい人なんて、珍しいんだけど。さて、この雨は、いつ止むのだろう。……皆が困るから、あまり長く降って欲しくはないんだけど、降らないと降らないで、恋しくなる。てるてる坊主、どっち向きにひっかけようかな。

七月
 緊張感のある空気がボクにも伝わってくる。ボクはその空気、あまり好きじゃないんだけどなぁ。それを言ったら怒られそうだけど、そういえばボクには、怒る人がいない。

八月
 張り詰めた空気からは解放されるんだけど、皆の姿もめっきり無くなってしまう。ねぇ、ボクに会いに来てよ。時々思念的なものを送ろうとは思うんだけど、なかなか届かない。仕方ない、暑いんだから。ねえ、冷房入れちゃ、ダメ?

九月
 皆が戻ってくる。ボクの近くにいない間、皆は色々楽しんできたようだ。こんなことしたよ、と話をしてる。ねぇ、その話、ボクにも聞かせてよ。そんな気持ちは、伝わらない。伝わらないけど、そっと耳を澄ます。

十月
 空気がだんだん「楽しみ」ってのと「嫌だ」というのに染まっていく。そうだ、来月は、お祭りだ。今年はどれだけの人と、会うことが出来るのかな。

十一月
 皆、お祭りを楽しんでる。ボクの所にもバンドを組んでる人がやってきて、演奏してみんなで盛り上がってる。そしてこのお祭りは、懐かしい人たちに会う、そんな日でもある。深く関わった人、ちょっとしか関わらなかった人。もちろん思い出に違いはあるけれど、皆、ボクは覚えてる。最初から、ここにいたから。

十二月
 空気は少し浮かれ気味。樹木に電球が装飾されているのも見える。そっか、もうすぐクリスマスか。そう思っていると、上から白い結晶、雪、が降ってきた。

一月
 訪ねてくる人は結構、張り詰めた空気を持っている。そっか、年二回の大きなアレだ。おどけたら笑ってくれないかな。まあ、ボクに気づかないことの方が多いんだけど。

二月
 この一年で親しくなった人たちはあまり来ない。でも時々、ものすごく緊張した、ボクの知らない人たちが通り過ぎる。ボクも、新しい人たちを迎える準備をしなくちゃ。

三月
 ボクの所を訪ねてくれた人たちが、涙を流してる。そっか、ボクと一旦お別れなんだ。お別れの挨拶をしてくれるひとなんていないけど、ボクからは声をかける。さよなら、お元気で、また訪ねてきてね、と。そして新しい人を迎える、準備を再開する。今年は一緒に皆を見守る仲間が増えるんだっけ。

そして、四月。