羊たちの受難-マインクラフトにおける羊

 望月あると氏に「『街』の時みたいにマインクラフトの羊で何か書くのですか」と提案されたので、書いてみようと思います。

***

 マインクラフトというゲームの中で、木材を最初に探すとしたら、「羊」は二番目に探すといってもいいかもしれません。羊からは羊毛が取れ、木材三個と羊毛三個を組み合わせてベッドを作ることが出来るからです。ベッドが無くてもプレーヤーは不眠不休で動くことが出来、ベッドによって体力を回復することもないのですが、夜、ゾンビなどが発生する夜をスキップ出来るという利点があります。装備の整っていない序盤において、ダメージを与えるモンスターをある程度回避出来るアイテム。だからプレーヤーは木材(厳密には原木ブロック)を取得した後、羊を探しにいくのです。
 さて、そんな「羊」の、PC版マインクラフトにおける歴史について見ていきましょう。

一、羊の出現と調整

 羊の出現の前に、まずは マインクラフトの歴史について軽く触れていかなくてはなりません。
 マインクラフトはスウェーデンのMojangという会社(最近、マイクロソフトが買収したことがニュースになりました)が作っているゲームで、大きく分けるとクラシック版、アルファ版、ベータ版、正式版の四種類に分けられます。クラシック版の初期においては現在でいうクリエイティブモード、空中を自在に移動かつブロックを任意に取り出して設置できるモードしか実装されていなかったのですが、その後、体力という概念(後に空腹も)が追加され、プレーヤーに重力が適用されるサバイバルモードが実装されました。
 私はクリエイティブモードで色々な建造物の製作をしていることが多いのですが、サバイバルモード、特に「ハード」という難易度でのプレイにおける建造物製作もなかなか面白く、落下の危険やモンスターが不意に襲ってくる恐怖、そして材料集めなど、進みは遅くなりますがその分達成感が増加していく、そんなプレイスタイルも楽しいと思っています。ただ自分がサバイバルでプレイするのは他の人が立てているマルチサーバ限定で、そのサーバも最近休止状態だったのでクリエイティブでのプレイが多くなっていますが……。
 マインクラフトにおいて羊の出現が予告されたのは二〇〇九年十月二十五日のことだそうです。この時、YouTube(http://www.youtube.com/watch?v=2XDxbZjmGq4)に「羊」をテストする動画がアップロードされました。
 プレーヤーが実際に触れることが出来るようになったのは「0.27 SURVIVAL TEST 11」のことです。この時は、羊をキルすると肉をドロップする計画があったそうなのですが、その後「0.30」で正式に実装される際は、羊を左クリックで叩くと白い羊毛を二個ドロップし、キルするとキノコをドロップする仕様となりました。羊は草ブロックを食べて土ブロックに変えるのですが(周りに草ブロックがあれば、土ブロックは草ブロックに再び変化します)、三ブロック分食べるとその羊の羊毛は回復し、再び取れるようになります。
 この時サバイバルモードが実装されているので、羊はサバイバルモードとともに歩んできたことになります。
 アルファ版においては、羊を叩いたときの羊毛ドロップ数が二個固定から一〜三個のランダムドロップに変化したものの、基本的な仕様については変化していません。しかし叩くだけで羊毛を得られる形式が廃止されることが予告されており、その代替手段として釣竿の使用が検討されていました。
 その後ベータ版移行に当たり薄灰色と黒の羊、そしてピンクと茶色の羊が追加され、それらの羊からは対応した色の羊毛が取れるようになりました。叩くだけで羊毛が取れる、それは羊には若干苦痛だったかもしれませんが、その後の変化を考えるとプレーヤーにとっても、羊にとっても優しい時代だったいえるかもしれません。
 しかし、羊に対する大きな変化が「ベータ版1.7」において訪れます。それは羊に対しては優しく、しかし厳しい変化となりました。

二、ハサミの登場と仕様変更

 ベータ版1.7において、ハサミがアイテムに追加されました。鉄インゴット二個を組み合わせることによってクラフトするハサミ、これを使うことによって羊にダメージを与えることなく羊毛を手にいれることが出来ます。そして二〜四個をドロップするなど、ハサミを使った方が有利な環境、羊に優しい環境が構築されました。
 しかし一方で、叩くと羊毛をドロップする環境は廃止されました。代わりに、ハサミで刈られていない羊をキルすると一個羊毛をドロップするようになりました。このことによって、プレーヤー、そして羊にとっては厳しい環境が与えられます。
 鉄インゴットを手に入れるためには鉄鉱石を焼く必要があります。鉄鉱石が埋まっているのは──地下です。木材からピッケルを作って石を掘り、掘った丸石ブロックを組み合わせて石ピッケルをつくり、地下を掘っていかなければなりません。鉄鉱石を掘り当てたら、丸石を組み合わせて作る「かまど」で焼かなければなりません。
 しかし、真っ先に得られた鉄をハサミに使うプレーヤーばかりでしょうか。答えは否、だと思います。大概のプレーヤーはその鉄インゴットでまたピッケルを作り、地下深くに埋まるダイヤモンド獲得を目指すことでしょう。しばらくの間は叩いたり、剣を使ったりして羊をキルし、羊毛を得るということでもあります。その意味で、羊は厳しい環境へと追いやられたのです。
 
 加えて、攻撃されるとプレーヤーから逃げるという仕様は次の「ベータ版1.8」になってからの追加です。期間が短いとはいえ、一方的に攻撃される状態に置かれたということもまた、事実なのです。

三、子供を産む羊へ──「重さ」との葛藤

 正式版移行の直前のテスト版で、羊が子供を産むようになりました。羊は、二頭の羊に小麦を与えると一頭の子羊を産みます。これによって多くの羊を飼育することが容易になり、サバイバル環境で羊毛を大量に使った建築、そしてドット絵を作ることが可能になりました。その後一つの草ブロックで羊毛を復活(ただし一〜三個ドロップに変更)させるようになり、羊の大量飼育に向いた環境が整えられます。
 しかしここで違う壁が羊たちを襲います。それは「ラグ」でした。
 動物やモンスターはそれぞれ AIを保有しており、大量に発生するとその分だけ処理が必要となります。シングルプレイではともかく、複数人が接続するマルチプレイで、これは問題になりました。プレーヤー側にとっては表示に時間がかかり、サーバ側にとってはその処理が負担となり、全体としてブロック設置なども「重い」世界になってしまいます。そして羊は羊毛を取るために飼育するので、ハサミを使って刈り取れば羊の総量は変わりません。増えることはあっても減ることのない羊は、マルチサーバにとっては厄介なものになっていきます。私が参加しているサーバでは現に、羊の大量飼育が禁止されています。羊にとってやさしくなったように見えて、羊にとっての自由は制限されていったといえるかもしれません。

四、そして食用へ

 しばらくは羊の仕様は安定した状態が続いていました。その羊に新しい要素が付け加えられたのは「正式版1.8」、執筆時の最終バージョンは「1.8.1」ですので本当に最近のことです。このアップデート、ウサギや花崗岩・フラッグなど、新要素が多数追加されたものでしたが、その影響は羊にも及びました。それが「羊肉」と「ジンギスカン」の追加です。ハサミの登場以来、もっぱら羊毛を収穫する目的でキルされ、飼育されてきた羊に新たな役割、食用肉の役割が与えられることとなりました。
 しかし、この要素追加はプレーヤーにとってはありがたいものですが、羊にとっては決して幸せなものではないことでしょう。開始当初、プレーヤーはベッド作成のための羊探しに加え、食料としての羊探しをすることとなり、羊は今までよりも狩られる対象となります。一方、集団飼育の段階となると羊肉をあえて優先させる必要がなくなり、また羊を染料で染め色別飼育を行うことが多いので、羊をキルする必要はありません。結果として羊にとっては序盤にキルされる可能性が高くなり一方で集団飼育の状態は変わらないなど、むしろ羊の運命は厳しいものになっているのです。

***

 ここまで、マインクラフトにおける羊について見ていきました。最初に探す動物として身近な羊ですが、その羊に攻撃を加える前に、羊たちの受難について考えてみるのも良いのではないでしょうか。